海馬のCA3野

老年期にさしかかった人は、「近頃、物忘れがひどくなった」といいますが、最近、私も実感しています。
さて、3週間前の日曜日のうんちくでは、海馬のCA1野が記憶に基盤に関係していることを述べました。

今週は、海馬のCA3野が記憶にどのような影響を及ぼしているかについてです。

実は、CA3野は、思い出す、記憶を想起するということに直接関係しています。

海馬

海馬は、脳の奥深くに弓のような形をしています。

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では、海馬の中の回路を見てみましょう。

嗅内野(きゅうないや)から貫通線維が出て歯状回でシナプスを作ります。歯状回から苔状線維が出て、CA3野でシナプスを作り、CA3野からシャッファー側枝がでてCA1野でシナプスを作り、そこから嗅内野の深層に海馬台を通してつながるものと直接つながるものがあります。
CA3野で特徴的なことは、反回性経路があるということです。CA3野のニューロンが、側枝を出して、ぐるっと回ってCA3野のニューロンに対してシナプスを形成しているのです。
CA3野のニューロンの同じニューロンとつながったり(約10%)CA3野にある他のニューロンにつながったりしています。つまり、CA3野のニューロンは、お互いで緊密な結合ネットワークを作っているということになります。
このことが記憶の想起に関係しています。

注)嗅内野:大脳皮質と海馬の間の出入力のほとんどが、嗅内野を介して行われる。空間情報処理が行われていると考えられ、アルツハイマー病の病変が初期段階から観察される領域である。

思い出す(想起する)ということ

今年も夏がやってきます。同窓会の季節です。
何年か前の同窓会の時の出来事です。同窓会会場まで歩いていると、●○くんがいました。遠くでも顔を見てすぐわかりました。その瞬間、昔のことがいろいろ思い出されました。そういえばよくあいつの家に遊びに行ったものです。あいつの部屋は2階にあって、薄暗い階段をあがるとすぐ窓があり、なんと窓から海がみえる。これっといった用事もないのによく遊びに行きました。という具合に、遠くからの顔を見ただけで、●○くんとのいろいろな出来事が思い出されました。
これは連想記憶と呼ばれるもので、脳細胞のネットワークに蓄えられていた記憶です。
ある1つの刺激で、いろいろな記憶がつながって思い出されるのです。このことがCA3野の反回性経路と関係が深いのです。
CA3野の反回性回路でぐるぐる情報を伝達しながら、連鎖的につながった記憶を想起するのです。
それでは、CA3野が思い出す(想起する)ということに関係していることを実験で確かめましょう。
マウスのCA3野の記憶の再生が行われる遺伝子をノックアウトします。このことで、このノックアウトマウスは、記憶を思い出すことができなくなるはずです。

ここからが、メインの実験となります。

スイミングプールを4分割して、4つの領域に分けます。それぞれ、1,2,3,4の領域とします。マウスは、何回か練習しましたので、領域1にプラットホームがあることを覚えています。このとき、スイミングプールの周りには、4つのオブジェクト(①ピンクの楕円の物体、②傾いた青の立方体、③黒の★の物体、④赤のぐるぐる巻きの物体)を配置しておきます。

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実験結果

ノックアウトマウスも正常なマウスも、プラットホームの位置を覚えると、プラットホームを取り外された時、プラットホームがあった領域1を熱心に探しますが、スイミングプールの周りのオブジェクトを取り外すと、ノックアウトマウスは、どこにプラットホームがあったのかがわからなくなります。④赤のぐるぐる巻きの物体の反対側の左にあったことを思い出せないのです。
ノックアウトマウスが思い出すことができないということは、思い出すことが、CA3野に関係しているということになります。

喜屋(よろこや)カンナ