CA1野

最近物忘れというよりは、覚えられないことが多くて困ります。記憶は、脳の海馬で行われていて、神経細胞のネットワークに関係しています。
神経細胞のネットワークを活性化すれば、記憶がよみがえる?のです。
では、ネットワークを活性化するとはどうゆうことでしょうか?
詳しく見ていきましょう。

神経細胞

脳には神経細胞があり、ニューロンと呼ばれています。
そのニューロンは、神経細胞体、軸索、神経終末から構成されていて、ニューロンの神経終末が、他のニューロンの神経細胞体とくっついて、神経細胞のネットワークを作っています。脳は、その神経のネットワークを活性化することによって、記憶したり記憶を呼び戻したりしています。

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ニューロンの神経終末と他のニューロンの神経細胞体とくっついている部分を拡大してみると、そこには、シナプスと呼ばれる部分があります。

シナプス

ニューロンの神経終末部分の先端にあるのが、シナプス前軸索終末で、もうひとつのニューロンの神経細胞体の部分をシナプス後神経細胞といいます。
神経のネットワークで情報が伝達されるということは、それぞれの神経細胞から、他の神経細胞に情報が伝達されるということですが、その情報は、シナプスで伝達されています。シナプスの前軸索終末にあるシナプス小胞から神経伝達物質が放出され、それをシナプス後神経細胞の受容体が受け止めて、細胞体に取り込みことによって情報が伝達されるのです。
この情報の伝達は、伝達される情報量が少ないと、脳はネットワーク上で記憶することができません。つまり、情報伝達の量が少ないということは、ネットワークの回線はつながっているのですが、働いていないに等しいのです。
目から入った刺激や、耳から入った刺激、その他5感からの刺激が脳で電気信号に置き換えられて、神経細胞に情報が伝達されます。そのときシナプスが長期増強され、情報量がたくさん伝達されるようになり、目から入った情報や耳から入った情報などが記憶されるのです。

バケツの水に指をいれると、小さな水輪ができますが、すぐにその水輪はなくなってしまいます。手首をバケツに突っ込むと、水輪は大きくいつまでも余韻が残ります。
この余韻が大きく長く続かないと、記憶できないのです。

このことをシナプスの伝達の長期増強といい、このメカニズムは、脳の海馬で行われています。

ネズミを使った実験

シナプスの伝達の長期増強ということが、記憶に関する基盤をなしているということを、マウスをつかった実験で証明します。
ある特定の遺伝子をノックアウトして、シナプスの伝達の増強ができない変異マウスを作ります。
そのあとで、ノックアウトしたマウスと正常なマウスの行動を比較して、マウスの記憶を調べるのです。

実験手順

① 海馬のCA1野には、長期増強に関与していると思われる受容体(シナプス後神経細胞にある伝達物質を受け取る部分)があります。たくさんの受容体の中で、NMDA受容体の活性化がシナプスの長期増強に大きく係わっていると考えられています。このCA1野のNMDA受容体をノックアウトしたマウスを作ります。(NMDA受容体をノックアウトすると、シナプスの長期増強がおこらなくなります)
② CA1野のNMDA受容体をノックアウトしたマウスが、本当にシナプスの長期増強がおこらないのかを、刺激用電極と記録用電極をマウスの海馬に直接取り付けて、電気刺激を人工的に与えて、長期増強が起きるかどうかを調べます。そのことによって、ノックアウトマウスのシナプスの長期増強が起こらないことを確認します。

次に、ノックアウトマウスの記憶に障害があるのかを実験します。

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③ミルク状(不透明)の液体に満たされた直径1.6mのマウスのスイミングプールを用意します。マウスは水が嫌いなので、水の中に入れると水から出ようとします。スイミングプールの中には、プラットホームが用意されています。そのプラットホームは、濁った水の表面から1cm下に沈めてあるので、泳いでいるマウスからは見えません。
マウスは水から出ようとして泳ぎますが、プラットホームにぶつかることによってその位置を把握し、プラットホームの上に乗って休むことができます。
このとき、マウスはスイミングプールの周りに見える物体から空間を把握して、プラットホームの位置を記憶するので、スイミングプールの周りに見える物体は、移動しないようにします。
この実験は、一日数回、2週間くらい続けます。
④ 正常のマウスとノックアウトしたマウスを20回程度練習させます。このとき、プラットホームにたどり着くまでに1分以上の時間がかかりました。

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⑤ 20回の練習の後、正常なマウスをスイミングプールに入れると、どこからスタートしても15秒程度でプラットホームにたどり着きます。
一方、ノックアウトしたマウスは、なかなかプラットホームに行きつくことができません。
CA1野のNMDA受容体をノックアウトしたマウスは、明らかに空間記憶に障害が起きているのです。
この実験結果は、シナプスの伝達の長期増強ということが、記憶に関する基盤をなしているということを証明しています。

海馬を鍛えましょう。

喜屋(よろこや)カンナ

参考文献:私の脳科学講義 利根川進著