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記憶力を増強

記憶力は、技術的に増強することが可能です。
すでにネズミの実験で証明されました。

神経細胞間の情報伝達

記憶のメカニズムをおさらいします。


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上図は、海馬のシナプスの拡大図です。
右側が神経細胞から伸びている長い軸索の先端です。
左側は、別の神経細胞の太い樹状突起の先端です。
情報伝達は、右側の神経細胞から左の神経細胞に伝わります。
まずは、右の神経細胞に活動電位が伝わってきます。この活動電位の刺激によって、軸索の先端にあるシナプス小胞の中の神経伝達物資が外に放出されます。
放出された神経伝達物質は、右側の神経細胞のスパインにある受容体を刺激して、受容体のチャンネルを開かせます。すると、ナトリュームイオンがその受容体を通過して左の神経細胞に活動電位が発生します。
これが、シナプスの情報伝達の仕組みです。
神経細胞と神経細胞は、直接つながっているのではなく、神経細胞間には隙間があり、電気信号を化学信号に変換して、その化学信号を再び電気信号に変換することによって伝達しているのです。


NMDA受容体の重要な役目



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スパインには、2種類の受容体があります。AMPA受容体とNMDA受容体です。
この二つの受容体は、神経伝達物質(グルタミン酸)を感知してスイッチを開くのですが、通常のシナプスの活動で使われるのは、AMPA受容体です。NMDA受容体はAMPA受容体に比べて反応が鈍く、なかなかチャンネルが開きません。
つまり、大きな活動電位が軸索に発生し、多くの神経伝達物質が放出されないと、反応しないのです。
ところが、NMDA受容体には、おおきな役割があります。
NMDA受容体は、スイッチが開くとカルシュームイオンを通すのです。
カルシュームイオンが神経細胞に流れ込むと、眠っていたAMPA受容体を活性化させ、AMPA受容体の数が増え、ナトリュームイオンが大量に流れ込みます。
すると、ナトリユームイオンによる活動電位が大きくなり、シナプスの伝達効率が高くなるのです。
この上昇した電位は、刺激の後でも、高い状態で長時間維持され、この現象をLTD(長期増強)といます。
電位差が記憶力ですので、高い状態で維持されるということは、記憶力が増強されたということです。
つまり、記憶力を増強するには、LTD(長期増強)が大きくすれがよいことになります。


天才ネズミ

1999年のネイチャー誌に天才ネズミが発表されました。
英国の分子生物学者チェインは、記憶力を増強したネズミを作り出しました。

どういうことかというと、ネズミの遺伝子にNMDA受容体の遺伝子を余分に組み込んだのです。もともと普通のネズミの遺伝子には、NMDA受容体の遺伝子は1組しかないのですが、NMDA受容体を2組にしたのです。

そして、このネズミで、水迷路実験をしました。
水迷路実験とは、プールの中にプラットホームを設け、水をプラットホームが沈むように水をいれて、ネズミをプールに離します。
ネズミは、水が嫌いなので、プラットホームを探して周囲を泳ぎ、水面下にあるプラットホームを見つけて避難します。
何度か練習させがした後で、プラットホームにたどり着くまでの時間を計測します。

この水迷路実験の結果、NMDA受容体の遺伝子を2組にしたネズミは、ふつうのネズミの半分の時間でプラットホーム(避難場所)をみつけだしました。
一度見つけた避難場所をしっかり覚えているのです。

  • →NMDA受容体を増やす。
  • →多くのカルシュームイオンがスパインに流れ込む。
  • →カルシュームイオンが眠っていたNMDA受容体を活性化させる。
  • → NMDA受容体が増えると、スパインに流れ込むナトリユームイオンが増加する。
  • →ナトリュームイオンが大量に流れ込むとLTD(長期増強)が起きる。
  • →LTDによって活動電位が高い位置で維持され、電位差が生まれる。
  • →電位差が生まれること、つまり記憶力が増強される。
  • →ネズミはプラットホームの位置を記憶することができる。
  • →水迷路実験でのプラットホーム到達時間が短縮される。

遺伝子操作

遺伝子操作による、記憶力の増強が技術的に可能なことがわかっています。もちろん人間にも応用できますが、大きな問題があります。

遺伝子操作は、治療目的で研究されてきました。
しかし、記憶力を増強するための遺伝子操作を人間に応用することは、人体改造であり、倫理上、行ってはいけないのです。

参考文献:記憶を強くする 池谷裕二著

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