見ることの不思議なメカニズム
私たちがものを見ているということは、物の形や色を脳で電気信号に変えて理解しています。

① まずは、見る対象の物体から光が入ってきます。
② その光が目の底にある細胞にぶつかります。
③ そこで光のエネルギー(いろいろな波長の光)がそれぞれのパターンの電気信号に置き換わります。
④ その情報が脳の後ろへと伝達され、視覚野という脳の視覚をコントロールする領域(V1,V2)で計算や合成が行われます。
⑤ その計算や合成が行われることによって、やっと物が見えることになるのです。
ところが非常に不思議な現象が起きます。

右の図を10秒か20秒、じっとみてください。
すると立方体が斜め上から見えたり、斜めしたから見えたりします。
しかも、それが数秒後に斜め上から見えたり、斜めしたから見えたり交互に繰り返されます。
つまり、私たちの脳は、両方を同時に認識できないのです。
目に入ってきている光のエネルギーのパターンは同じなのに、それにも関らず、脳が認識する物体は2種類あるということです。
同じような現象があります。

心理学で有名な絵を作ってみました。
この絵をみていると、花瓶の形と認識する時と二人の人が向き合っている横顔に見える時があります。
なぜこのようにみえるのでしょうか
そこで脳でどのようなことが起こっているのかを解明する実験が行われました。
サルの実験
右目は右側だけ、左目は左側だけが見える状態にしておいて、サルに画像を見せます。
さらに、左目に太陽がみえた時に、左にあるレバーを引くとジュースがもらえて、右目にカーボーイが見えた時に右側のレバーを引くとジュースがもらえる仕組みとしておきます。サルはのどが渇いているので、がんばってやります。
このトレーニングを何度も繰り返します。サルのトレーニングが終わったら、いよいよ実験です。
実験手順
左目に太陽を5秒間、つぎに右にカーボーイを5秒間、次に、左目に太陽、右目にカーボーイを見せます。
実験の最中、サルの脳のMT野(視覚をつかさどる脳の領域)の活性化を記録します。
実験結果
- 左目に太陽を5秒間見せる:脳の活性化はそれほど見られず、サルは左のレバーを引きました。
- 次に右目にカーボーイを5秒間見せる:脳の活性化が見られ、サルは右のレバーを引きました。
- 次に左目に太陽、右目にカーボーイを見せると、最初の5秒間は脳の活性化はみられず、サルは左のレバーを引きましたが、次の5秒間は脳の活性化が見られ、サルは右のレバーを引きました。サルは同時に左右のレバーを引っ張ることはなく、このことが繰り返されたのです。
つまり、MT野の細胞は、カーボーイが見えている時にだけ活性化する脳神経細胞ということになります。また、太陽だけに活性化する神経細胞を見つけることができます。
この実験から次のことがわかりました。
外から入ってきている刺激が同じなのに、太陽を認識したり、カーボーイを認識したり、それらが交互に入れ替わる。しかもこの認識に対応して活性化する脳神経細胞があるということです。
右目の情報認識を優先したり、左の情報認識を優先したりして、脳が混乱しているのです。
これが錯視の正体です。
喜屋(よろこぶや)カンナ
参考文献:私の脳科学講義 利根川進著