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肝臓と記憶のメカニズム

驚いたことに肝臓と記憶のメカニズムには、不思議な共通点がありました。

NMDA受容体

記憶のメカニズムに、NMDA受容体が大きな役割を果たしています。
NMDA受容体は、グルタミン酸受容体の一種で、記憶や学習に深くかかわる脳神経細胞のシナプスにあります。
シナプスにあるNMDA受容体が、カルシュームイオンを多量に通過させることで、休んでいたAMPA受容体が目をさまします。AMPA受容体は、ナトリユームイオンを通過させて記憶をコントロールするのですが、ナトリュームイオンが多量に通過すると記憶が増強されるのです。
つまり、NMDA受容体の活動が活発になれば、神経細胞間の情報伝達が活性化し、記憶力を増強することができます。

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スクリーニング

NMDA受容体の活動を増強する薬の開発がおこなわれています。薬を作ることを目的に、人間の体内に元来含まれている物質のなかから、スクリーニングによって探し出します。

人間の体内にあった物質の中から探すのですから、それだけ人間にとって副作用が少ない薬ということになります。スクリーニングとは、多数の候補化合物を対象として、効果のある薬を探し出すことです。

そして、その物質が発見されました。それがK90 です。

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K90

K90という物質は、肝臓に多く含まれています。肝臓は、90%を取り除いても元通りに再生するという高い再生能力をもっています。どのように再生するかというと、肝臓が切除されるとK90 が分泌され、残された肝臓細胞を刺激して増殖させているのです。
驚いたことに、このK90 が脳にも存在します。
なんと脳の海馬にK90が多く含まれているのです。

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K90の効果

K90が海馬で何をしているのか、その役割は全く不明ですが、NMDA受容体のカルシュームイオンの流れを3倍以上に上昇させたのです。
これほど大きな効力をもった物質は、いままでありませんでした。

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水迷路試験

水迷路試験は、ネズミのプールを用意して、中にネズミを入れて泳がせる試験です。
ネズミは、周囲の風景を記憶し、それを頼りにゴールの浅瀬の場所を探して水をはったプールの中で泳ぎ廻ります。ゴールに到着する時間、またはゴールを取り除いて、ゴールのあった場所を通過した回数や滞在時間を計測して、評価基準とします。
ゴールは、水の中にある透明のアクリルのプラットホームなので、ネズミは純粋に周囲の風景のみを頼りにゴールを探します。これが1981年に発表されたモーリス式水迷路試験法です。

K90を試験30分前にネズミに与えて水迷路試験を行います。すると、K90を与えられたネズミは、あきらかに試験結果がよかったのです。しかもK90を与えれば与えるほど、優れた試験結果だったのです。
K90は記憶力を増強するだけでなく、記憶効率も良くなります。
実際に知能をよくする薬が存在するのです。

参考文献:池谷裕二 記憶力を強くする 講談社