日曜日のうんちく 

てんぐさばき

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金がないからどこへもいけない。

もちろん誰もこない。

仕方がないってんで、布団の中に一日入っている。

日が昇って、太陽だって昇りっぱなしじゃくたびれるから、やがておちる。

日が落ちるから夜が来る。

奴は、その間寝たままだ。

それでも洗面器を枕元に置いて、そこで暮らしていたという。

しまいには、家の中にキノコが生えてきたって。

ホントかねェ。

収入がないから電気もガスも止められちまう。

しょうがないってんで、立川だが八王子に住んでいたらしいが、時折水を飲んだり、顔をあらったり、歯を磨いたりするために駅へいくという。

駅員がいやな顔をして、

「困りますねェ」

すると

「だってあたしは定期を持っている」って。

なんで定期を持っていたのか?

定期があるんなら、どこかへいくとか 次の行動をとればいいのに・・・・

なんだかワカンナイ奴だねェ。

そんでもんで

「なにかい、家になにもないの?」

「ない」

「茶碗もないの?」

「ない」

「水どうやって飲むの?」

「こうやって飲む」

って、手つきをしたね。

手で飲むっていうのはウケた。

だから、湯は飲めないという。

ちょっとできすぎな 貧乏話じゃないか。

ちょっとましな貧乏ってのもいたね。

家に遊びに行ったら、屋根裏の二畳間だかに住んでいて、部屋の中で立ち上がられないという。

「背伸びもできないじゃねえか」

というと

「いや、今開けるから」

って天窓という屋根の窓を開けて、

それでもって空にむかって背伸びをして、また閉めたという。

夢でもみてろ。

ていうんで、昼寝をしたね。

画像の説明

おもしろい夢を見ているのか、ねているのに、笑ったり、怖い顔したりたいへんだ。

その様子をみていた喜八のおかみさんが、喜八をゆり起して、

「なあ、あんた。いったいどんな夢見てたん?話して聞かせてな」

「いや、わしは夢なんか見てないで」

「うそをつきなさんな。うちら夫婦やのに、なんで隠し事するのん」

「かくしてないがな。ほんま見てないから、見てないと言うただけや」

「あんたがそんな人やとは思わんかったわ!あんたなんか嫌い」

「なにをーっ!」

とうとう夫婦げんかになっちゃった。

よせばいいのに、そこに止めに入ったのが、となりに住んでるとくだ。

「ちょっとまて。どないしたんや」

「うちの人がおもしろそうな夢を見てたから、どんな夢やったか教えてくれってたのんでも教えてくれませんねん。うわーn」

「これこれ、泣いちゃあかん。おかみさん、夢の話なんか聞いてどないすんねんな。ちょっと、おもてへ散歩に行って、頭冷やしてきなはれ」

おかみさんが出て行くってェいうと、とくが、

「なあ、喜八。おまえ、ほんまはどんな夢みたんや。」教えてえな」

「いや、ほんとに夢なんかみてないねん」

「おい、おれをおまえは子供の時からの友たちだぞ。それに今日は夫婦げんかを止めてやったんだぞ。その恩も忘れやがって、どないしてもしゃべらんというのか」

「見てないもんはしゃべれるかい」

「なにをーっ!」

また、けんかになっちまった。

今度、止めに入ったのが長屋の大家。だいじょぶかねェ!

「ちょ、ちょっと待て。なんでけんかしてんねん。とくさん。話をしてみい」

「喜八が見た夢の話をせえへんというので、おかみさんと夫婦喧嘩をしてたから、わては止めに入ったんやで。で、仲直りさせてから、誰にも言わんから、どんな夢を見たのか教えてくれって言うたのに、こいつ、教えてくれませんねん」

「あほ!ひとの夢の話を聞く暇があったら仕事せえ!帰れ、帰れ」

とくさんを追い返しちまった。

そのあと、大家は喜八に、

「わしにやったら、夢の話、聞かせてくれるやろ」

「いいえ、ほんまに夢なんかみてません。見てない夢の話はできません」

「なにい!大家のわしにも夢の話をせんというのか。こうなったらお奉行さまに裁いていただくぞ!」

てなことで、大家は、お奉行様に

「喜八が夢の話をしてくれません」とうったえちゃった。

すると お奉行様は大家に

「たかが夢の話をしないということでうったえて出るとはなにごとじゃ。喜八は夢の話をしなくてもよろしい」

と大家を追い返したあと、

「これ、喜八。大家にもしゃべらなかった夢の話。奉行にならしゃべれるであろう」

「いえいえ、わたし、ほんまに夢はみてないんでございます」

おこったお奉行さまは、

「夢の話をするまで、縛りあげておけ」

と喜八の体を奉行所の庭にある松の木にしばりつけてしまった。

いやはや、その日の夜中、ものすごい風がふいて、喜八は吹き飛ばされちゃった。

遠い、遠い、山の中まで飛んでちゃった。ホントかねぇ。

「これ 喜八。喜八」

と呼ぶ声のほうをみるってえと、目の前に立っていたのは赤い顔した、鼻が高く、手にはは羽うちわをもった大天狗。

「気がついたか。夢の話を聞きたがって縛り上げるなど、あのような奉行に人は裁けぬ。天狗が代わって裁いてやった。おまえに罪はない」

「ありがとうございます」

「しかし、いったいどんな夢を見たのじゃ。聞いてやってもいいぞ」

「いえ、わたしほんまに夢はみてまへん」

「話をしないなら、おまえの体をばラバラに引き裂いてしまうぞーっ!」

天狗のとがった手の指の爪が、喜八の体にグザーッ。喜八!

「あーっ。助けてーっ」

と叫んだひょうしに目が覚めた。

ぜんぶ喜八の見た夢だった。

喜八がぼんやりしていると、おかみさんが

「あんた、えらいうなされてたけど、いったいどんな夢見てたん?」

あれっ?最初にもどっちまった。




よろこ