クレマチス2

日曜日のうんちく 

こどもに伝えること

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いつの時代でも、親は子供に成長してもらいたいと願っている。

社会構造の変動が比較的少ない時代には、親が覚えている仕事のノウハウや心構えをそのまま伝えれば、子供は親の跡に続くことができた。

しかし、現代は事情が少し異なる。

世の中が複雑になってきて、情報革命を核とした世界的な社会構造の現代で、親は子に、上の世代は下の世代に、何を伝承したらよいのかがわかりにくくなってきている。

では、

この変化の激しい日本社会において、大人が子供に伝えるべきものとは、何なのだろうか?

それは、

およそどのような社会に放り出されても「生き抜いていける力」であろう。

この生きる力とは、上達の普遍的な論理の経験を通じて「技を身につける」ことである。

どのような社会にも仕事はある。

たとえば、自分が知らない仕事があっても、仕事の上達の道筋を自分で見出すことができる力をもしもっていれば、勇気をもってあたらしい仕事にチャレンジしていくことができる。

技をどんどん身につけるある外国人を紹介する。

彼は、日本語を徹底的に自学自習する。テレビやラジオから言葉を聞き取り、それをノートにとって反復して覚える。積極的に日本人と話すことによって実践的に会話力を鍛えていく。向学心にあふれ、わからない日本語があるとどういう意味なのかすぐに聞いてくる。

彼は、流行っていたブレイクダンスを見せてくれた。「どこで習ったのか」と聞くと、「どこでも習っていない」「うまい人がやっているのをみて何度もまねて、自分で練習して覚えた」と答えた。

彼は、レストランで仕事をしていて、その給料でアパートを借りて暮らしている。彼は割といい給料をもらっている。どうして仕事がそんなにできるのかを尋ねたが、「よく見て、まねをすればいい」と答えた。

サラダを作るのは簡単で、一目見れば覚えてしまう。それを他人にはできないほど速くやるようにしたので、店では評判がよくなった。

どんな社会に放り出されても

「生き抜いていく力」を子供に伝えていきたい。


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まねる力

うまい人のやることをよく見て、その技をまねて盗む。これが上達の大原則である。

こんなことは、当然のことだと思う人がいるかもしれない。しかし、それを強い確信をもって自分の中心に置くことができるかどうかで大きく効果は違ってくる。

そこが勝負の分かれ目になる。

学校教育をはじめ、日本の教育の場の多くでは、この「まねる力」が、上達の論理の大原則であることが明確に認知されていない。

教育は、「学ぶ力」を育てることに本義がある。

「教える」があっても、「学ぶ」がなければ、教育とはいえない。

教える立場と教えられる立場との関係では、「まねる(盗む)力」は 育ちにくい。

言葉で丁寧に教えてもらえないからこそ、あるいは言葉で教えてもらえる以上のものを身に着けたいからこそ、「技を盗む」という意識が生まれる。

技は、なんとなく見ているだけでは、到底身につけることはできない。

「技を盗むんだ」という意識を強く持って、積極的な構えをもって臨むことによって、はじめてヒントが得られるのだ。

「まねる(盗む)力」がしっかり身についていれば、およそどこの社会に行っても何とか生きていける。

技をみて盗むことを基本とする徒弟制は、必ずしも一般的に効率的なやり方ではない。

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伝統工芸の伝承にみられるように、一流の技をしっかりと次の世代が引き継いでいくには合理的な形式でもあった。

しかし、徒弟制には、裏の面がある。

弟子があまり早く上達してしまえば、狭い社会においては競争相手になってしまうので、そう簡単には仕事の秘密は教えられない。

学校教育の場合、生徒が優秀に育ったとしても、直接自分の職が奪われるという関係にない。そのあたりが根本的に違っている。

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かつての阪急ブレーブス(現オリックス)の大投手山田久志がシンカーという技を習得したプロセスは、「まねる(盗む)力」によるものだ。

アンダースローは、低めに変化球を散らすピッチングが主体であるが、山田は、アンダースローからの浮き上がる速いストレートで三振の山を築き、監督やコーチから、コントロールをつけなければダメだと忠告されても、自分のスタイルを変えずに、速球で勝負して実績を上げた。

しかし、年齢とともに、ストレートだけでは勝負できなくなり、変化球を研究する必要に迫られた。

当時チームには、山田と同じアンダースロースタイルの名投手足立光宏がいた。

足立は、山田とは対照的に、スピードはないが、カーブとシンカーで相手を打ち取るピッチングをする投手だった。

山田は足立のシンカーを研究したがなかなか思うように投げられず、足立にシンカーの投げ方を教えてほしいと頼んだ。

足立は、

「シンカーを投げるとストレートのスピードが落ちるから、まだ投げるな」

と言って断った。

足立の本音は、

「いつの日か、山田は、自分にとって代わる存在になるだろう。教えたら、こっちはメシの食い上げになる。すぐには教えたくはない。

山田は、教えてくれないなら盗んでやれという気持ちだった。

秋季練習で投げる山田の姿とボールの切れをみて、自分の地位が危なくなると思った。チームに同じタイプは二人いらない。

山田の執念を感じた足立は、ようやく山田にアドバイスをした。

山田は、言う。

最初から教わっていたら、「ああ、こんなものか」で終わっていたかもしれない。だけど自分なりに悩んで、やっとわかりかけてきたときだったので、アドバイスが余計鮮明だった。

アドバイスの価値は、アドバイスを受け止める側の「技を盗む意識」におおきくかかっていることを教えてくれる。

「今の選手は何でも人に教えてもらっておぼえていくのですけれど、僕らの時代は盗むことからスタートしました。

簡単に教えてくれないから、相手の特徴とかクセから入って行っていくので、身についたときは、すっかり自分のものになっているのです」

単なる「まねる」「盗む」の違いはここにある。




よろこ